とんねるず
石橋貴明
木梨憲武
 
 1980年代、日本のお笑い界に現れたのがとんねるずである。その暴力的ともとれる芸風は多くの芸人に影響を与え、言葉遣いなど流行を生んだ。また幅広い人脈があり、それが音楽における豪華なスタッフ陣にも繋がっている。コミック色の強い作品を始めとしパロディソングなど幅広い音楽性の楽曲がある。今回は企画曲として位置づけられる「ピョン吉・ロックンロール」と「ヤバシびっちな女(め)デイト・ナイト」は除いたシングルレビューを行う。

シングルレビュー(以下、歌詞の引用元は各シングル記載の歌詞カードから、引用部分は""にて本文と区別する)



一気!
3rd 一気!
作詞:秋元康   
作曲・編曲:見岳章
1984年12月5日発売 売上 11.0万枚




 通算3枚目のシングル。数々の歌詞を提供している秋元康はここから参加している。作曲も初期とんねるず作品に多く関わり、「川の流れのように」を手掛けた元一風堂の見岳章。歌詞の内容は荒々しい一方で、楽曲は見岳章のいた一風堂の流れを汲むニューウェーブ調であり、それらが共存するという不思議なものに。とんねるず自身の人気にも支えられ、10万以上を売り上げ、好調なスタートをきったこともあり、第18回全日本有線放送大賞上半期新人賞を受賞した。後に見せる美しいボーカルはまだ鳴りを潜めている印象で一本調子な感じだが、木梨の女々しいボーカルや石橋の矢沢永吉のものまねをしたボーカルなど声質の幅広さも感じさせる。
 歌詞は「一気」、つまり一気飲みについて書かれたものになっている("酒さえあれば 一気!" という歌詞の通り)。今となっては世間の目も厳しく、この歌詞では炎上間違いなしな内容だが、当時のとんねるずの芸風からすると割と合っていた内容なのかとも思えてしまう。石橋のパートでは後にシングルのタイトルに冠する "YAZAWA" が登場している。また冒頭には初期シングルで多く行われている演出の石橋と木梨の名乗りが挿入されている。
 PVは見たことがない。翌年に発売されたオリジナルアルバム「成増」に収録されているが、その際にはカップリング曲「バハマ・サンセット」(こちらも同クリエイター陣製作)と共にアレンジされて収録されている。






青年の主張
4th 青年の主張
作詞:秋元康   
作曲・編曲:見岳章
1985年4月21日発売 売上 8.8万枚


 5か月ぶりのリリース。前作と同じ秋元康作詞、見岳章作編曲ではあるが曲調はロック調で全く異なる。多彩な音楽ジャンルを取り込むのがとんねるず音楽の真骨頂だが、早くもそれが見えているところ。しかもロック調ながらほぼ台詞パートというのも前衛的。コミックソング、いや歌ではないと片づけることは簡単だが、サビで思い切り展開が変わるところも含めて時代の先をいっていたと思う。まだラップが形としてできていないころ(後にとんねるずに曲提供する佐野元春がラップを取り入れた曲「COMPLICATION SHAKEDOWN」をリリースし、吉幾三「俺ら東京さ行ぐだ」が流行った頃。いとうせいこうより早い)にメジャーシーンでこうした曲が出て、しかもそれなりに売れているのだから恐ろしい。曲の構成は司会の台詞に合わせて石橋と木梨がそれぞれ『青年の主張』を行うもので、シャウトしながら台詞を詰め込んでいき、サビに入るというもの。
 歌詞は "成増" "帝京高校" などとんねるずらしいワードも散りばめられている。木梨パートでは「追っかけ」をテーマに「ミーハー」批判をやっており、2010年のアイドル戦国時代にも通じる「認知」「ミーハー」「アイドルに会いに行く」というテーマを描いている。"青年よ 青年よ 迷うことなかれ" "思うままにいざ進め" という青年へのメッセージは、勢いたっぷりに芸能界をかけあがるとんねるず自身の宣言にもとれる。
 PVは見たことがない。アルバム『仏滅そだち』ではリメイクバージョンが収録されている。

 




雨の西麻布
5th 雨の西麻布
作詞:秋元康   
作曲:見岳章
編曲:高田弘
1985年9月5日発売 売上 22.6万枚

 再び5か月ぶりのリリース。ラップの先駆けともいえそうな冒険的な前曲「青春の主張」に続いてはど直球の歌謡で、演歌とも分類されそうな楽曲(イントロで "マンボ" と言っているのがまた面白い)。この取り組むジャンルの幅広さに、とんねるずや秋元康、見岳章など製作陣の器用さがわかる(編曲は見岳ではなく高田弘が担当)。またコーラスに内山田洋とクールファイブが参加しており、豪華ゲストが参加するというのもとんねるずの音楽のポイント。セリフでは冒頭で自身の名前も再び登場するなど、「とんねるずが歌う」ことが明示的(どこかメタ的)にされているのは一つの特徴かな。売上も2.5倍ほど上昇し、次曲「歌謡曲」と並んで初期代表曲といえよう。
 "石橋です 木梨です とんねるずです" は次曲にも受け継がれるセリフパート。"銭湯をキャンペーンで廻っています" "紅白をねらいます" など歌い手としての世界観も構築されているのが面白い(ちなみに紅白出場は91年に達成)。"愛の終わり 胸の痛み" というパートは手の振りも相まって印象深い。「とんねるず」が歌っている歌詞世界では男女の思い違いによる別れというありがちなテーマを取り上げている。
 PVは見たことがない。この後にレコードレーベルを変更することもあり、オリジナルアルバムには収録されずベストアルバム『自歌自賛 ザ・ベスト・オブとんねるず』にて初収録となっている。同アルバムには(Original Version)という表記でキーなどの違う別バージョンも収録されている。